知らないうちに交換されていた給湯器
義父のお見舞いの依頼の紙が差し込まれる少し前のことだった。ある日、私の知らないうちに家の給湯器が交換されていた。しかも、なぜか温度の変更ができない状態になっていた。
もともと給湯器の調子は良くなかったが、外にあるリセットボタンを押せば使えていた。私は、まだまだ使えると思っていたので、そんなに慌てて交換するような状況でもなかったと思う。
それが勝手に交換された上に、温度も変更できなくなってしまった。おそらくチャイルドロックをかけられている状況だった。我が家にはそんな機能は必要ではないのに、わざわざそれがかけられている。2人の子どもたちは大学生で、1人は家を出て一人暮らしをしている。
元夫は、自分がお風呂に入る時だけロックを外し、入り終えるとまたかけ直していた。つまり、自分が必要な時だけ使えるようにしている状況だった。これはもう、意図的な意地悪としか思えなかった。
温度を変更しようとしても、私にはロックの解除方法が分からない。品番を調べ、Googleで検索してみたが、どう頑張っても解除できなかった。今ならAIに写真を読み込ませれば、詳しく教えてくれると思う。当時はまだ、AIなんてものは存在していなかった。
使えるのは低温のお湯だけで、とてもお風呂に入れる温度ではなかった。追い焚きもできなかった。

鍋とポットで作るお風呂
仕方なく、3つのコンロと電気ポットを使って熱湯を沸かし、それを3回ほど繰り返して、低温のお湯と混ぜ合わせながらお風呂に入れる用意をしていた。シャンプーするときや体を洗う時も、シャワーでは温度が低すぎるので、その沸かしたお湯を汲んで使っていた。
給湯器が取り替えられたのは、夏の終わり頃だったと記憶している。最初の2回ほどは、低温のまま我慢して入っていた。それでも、あまりの寒さに耐えられなくなった。それが夏の終わりでこの状態なら、真冬にそのままのお風呂に入れば、確実に体調を崩す環境だった。
なぜ、この時代に、昭和初期のようなお風呂の沸かし方をしているのだろう。そう思うと、情けなくなることもあった。
ただ、こうやってお風呂に入っているという事実を元夫は知らなかったと思う。
この生活は家を出るまでずっと続いていた。少なくとも数ヶ月間、真冬の寒い時期もこの生活だった。体調も崩すし、ゆっくりお風呂に入れない。これが毎日だと、かなり面倒。ゆっくり温まりたいので、会社帰りにスーパー銭湯へ寄ることが多くなっていった。私は、その家が自分のいるべき場所ではない、という思いが、ますます強くなっていった。
当時、同居していた長女は、元夫の部屋のドアをガンガンガンと叩き、解除の方法を聞いていたと思う。私はあえて長女からは聞かずに、わざわざ大変な思いをしてお風呂に入るという選択をとっていた。
これは、私の元夫に対する無駄な意地なんだろうか。もしかしたら、元夫は、私が折れて、何か聞いてくるとでも思ったのか。そんな挑発に折れたら『負け』だとさえ考えていた。

嫌がらせと、お見舞いの依頼が重なっていた
私に対して、満足にお風呂に入れない状態を自ら作っておきながら、よくもまあ、あんな依頼をしてくるものだと思った。義父のお見舞いをお願いする紙がドアの隙間に差し込まれたのは、給湯器の事件から間もなくのことだった。
義父が亡くなったのは寒い1月頃。私が家を出たのはその年の5月。つまり、給湯器を勝手に交換し、お風呂に入れない状態にする嫌がらせと、お見舞いの紙が何度も差し込まれていた時期は重なっていた。
当時住んでいたその家は、山を切り開いて建てられた土地にあった。同じ市内の、以前住んでいたマンションと比べても、気温はかなり低かった。マンションでは雪が降ってもうっすら積もる程度だったが、その家では、庭に積もった雪に傘を刺すと直立するほどで、私の膝下あたりまで積もることも珍しくなかった。寒い環境の一軒家のお風呂には大きな窓もあり冷える。
しっかり暖めないと体にこたえる環境だった。そんな寒さの中でチャイルドロックをかけ続ける。それを分かっていてあえてそうすることが、私には信じられなかった。
その神経が、私には理解できなかった。生活を壊しているのに、一方的な依頼をしてくる。その思考回路が、私には到底、理解できないし、元夫の立場になって考え直したとしても、不可解極まりない。
それとも、元夫は、低温の湯で十分に快適な入浴ができているとでも思っていたのだろうか。
「チャイルドロックをかけただけ」と断言した調停
離婚調停の際、これがモラハラであることの証明として、主張書面に給湯器の件を書いた。それに対して、元夫自身が書面で返してきたのが、「チャイルドロックをかけただけだ」という一言だった。
「なぜチャイルドロックをかける必要があったのか」。その核心の問いに対しては、最後まで答えが返ってくることはなかった。モラハラは一切ないと、元夫は断言していた。
モラハラ加害者には「嫌がらせをしている」という自覚すら存在しない。だからこそ、あの噛み合わない返答こそが、元夫のリアルだったのだと思う。


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