義姉の仕事「9時は早すぎる」「20分は遠い」
義実家で義両親とともに暮らしている、私から見て9歳年上の義姉がいた。
穏やかで優しい人で、あまり外出はせず、家で過ごすことが好きな人だったと記憶している。子どもたちの面倒も見てくれて、子どもたちは「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と懐いていた。
子どもたちが小さい頃、急な発熱などで私が保育園に迎えに行けないときには、義母にお願いすることがあった。義母は車の運転ができなかったので、義姉が家にいるときでないと頼むことができなかった。義姉の運転で何度か迎えに行ってもらい、本当に助けてもらった。
そんな義姉が、仕事を変えるという話をしていたことがある。
近くの職場に受かったという話で、パートかアルバイトで週3日くらい。出勤時間は9時、家から車で20分くらいの場所だった。受かったはいいものの、実際に働き始めるかどうか、義姉は迷っているようだった。
「9時出勤は早すぎる」車で20分という距離も「ちょっと遠い」。「通える自信がないから、断ろうかな?」そんな話をしていた。
「なにを言っている?」私は、心の中でつぶやいていた。
私の9時までと、義姉の9時まで

私も当時、同じように9時出勤だった。
朝は食事の支度をして、洗濯をして、子どもたちに朝食を食べさせ、身支度をする。子どもが相手なので、予定通りに進むとは限らない。急にぐずることもあるし、こちらが急いでいても、子どもは思うようには動いてくれない。
自転車で保育園へ送り、そこから電車で職場へ向かう。9時出勤でも、出勤の一時間以上前には家を出なければならなかった。
義姉は独身で、子どもはいない。家のことも、私が見ていた限りでは義母がやっていた。
車で20分の職場へ、自分の支度をして出勤する。私からすれば、「めちゃくちゃ楽」だと思えた。その環境で「9時は早すぎる」「20分は遠い」と言っていることが、正直よく分からなかった。
それにしても独身で実家にいるとは言え、いつまで親に甘えていて、収入は大丈夫なのか?そんなことまで、当時の私は考えていた。
私はといえば、短大に進学したいと言ったときも、親から「行きたいなら自分で学費を払って行きなさい」と言われた。だから、アルバイトをして学費を稼いだ。
自分が行きたいと思ったなら、自分で働いて、そのためのお金を自分で用意する。それが私にとっては当たり前だった。
だから、30代半ばになっても実家で暮らし、親に生活を支えてもらっているように見えた義姉に対して、「いつまで親のすねをかじっているんだろう」と思っていたのも事実だった。
一方で、子どもたちの急なお迎えでは助けてもらった。義姉が家にいてくれたから、義母にお願いすることができたこともある。助けてもらったことには感謝している。その一方で、義姉の生き方には「それで大丈夫なの?」と思ってしまう自分もいた。
感謝している気持ちと、正直なところ「ちょっと甘えているんじゃないか」と思う気持ち。その二つが、私の中には混在していた。
義姉に何かあったときには、私の子どもたちに負担がかかるのだろうか。そんなことまで考えていた。
義姉がどんな働き方をするかは、義姉自身が決めればいい。私がとやかく言うことでも、心配することでもない。それでも、同じ「9時」という時間なのに、そこまでにやることも、その時間に対する感覚も、これほど違うのかと驚いた。
生きている世界が違う
義母も義姉も、穏やかでおっとりした人だった。私はといえば、気が強くガチャガチャと動き回っているような人間だった。
義母、義姉、私。同じ女性でも、生物的カテゴリが全く違う。そんな感じだった。
同じ「働く」でも、背負っているものが違った

子どものことを考え、保育園へ送り、時間を気にしながら電車に乗る。仕事が終われば、また子どものことや家のことが待っている。私にとっては、それが当たり前の日常だった。
元夫は家事や子育てには無関心で、そもそも家にいないことも多かった。毎日、時間と戦うような日々が続いていた。
義姉の「9時は早すぎる」という一言を聞いたとき、私と、この人たちは、そもそも生きている世界が違うのではないか。
そんな感覚だった。穏やかでおっとりした母親と、家にいることの多い姉。元夫は、そんな家庭で育った。
そういう女性たちを身近に見て育った元夫からすると、私のように自分の意見を言い、忙しく動き回り、理不尽なことには反発する女性は、そもそも理解しづらかったのかもしれない。
元夫は、そんな私をコントロールしようとしているように感じることがよくあった。
それなら、穏やかで従順な、義母や義姉のような女性を選びそうなものなのに、なぜ私のような人間を選んだのだろう。
その謎は、今になっても解けていない。
ただ、このとき感じた「生きている世界が違う」という感覚は、後になって、元夫との関係を考える上で大きな意味を持つことになる。



コメント