威嚇音は「合図」だったのかもしれない|モラハラに気づくまで Vol.34

モラハラ

俺様の存在感の合図は威嚇音?

以前の記事で、玄関のドアの開閉音や階段を上る足音を、私は「威嚇音」のように感じていたと書いた。

叩きつけるような音でドアを閉め、地響きがするような大きな足音で階段を上り、部屋のドアを開ける。その音を聞くだけで、「元夫が帰ってきた」「部屋から出てきた」と分かった。私はその爆音に身体が硬直し、自室で息を殺して気配を消していた。

ただ、ふと思う。

私には「威嚇音」にしか聞こえなかったけれど、元夫からすれば、「合図」のようなものだったのかもしれない。「今から部屋を出るぞ」「今、帰ってきたぞ」。「お前は部屋から出てくるな」と、言葉ではなく威嚇音で知らせていたのかもしれない。

本当のところは分からない。そんなことを確認できるような関係ではなかった。

ただ、あの威嚇音を聞くと、身体が、危険なものから身を守るような反応をしていた。それだけは確かだった。

完全に壊れていた関係

家庭内別居といっても、夫婦によっていろいろあると思う。会話は少なくても必要なことは話す、食事は別々でも子どものことは一緒に考える。そんな夫婦もいるだろう。

私と元夫は、そういう状態ではなく、ただ単に、同じ屋根の下にいるだけ。籍が入っているだけ。夫婦としての実態は一切なかった。

何年前に元夫の顔を見たのかも覚えていない。相手が何を考えているのかも分からなかったし、相手が何を考えているかなど、興味も湧かなかった。

夫婦としての関係は、完全に壊れていた。あれを「夫婦」と呼んでいいのか分からない。

それなのに、元夫から「離婚したい」「家を出て行け」などの意思表示は一度もなかった。

離婚の話は出てこなかった

何か私に伝えたいことがあると、元夫は紙に書いて、私の部屋のドアの隙間に差し込んでくる。以前の記事にも書いたけれど、その内容は、ほぼほぼ文句だった。私に対する戒めだったり、嫌味だったり。口頭で話すことはなく、紙に書いて伝えてくる。

元夫が紙で用件を伝えてきたのには理由がある。私は元夫からの連絡をすべて遮断していた。電話もメールも、その他の連絡手段もすべてブロックしていたので、元夫が私に何かを伝えようと思えば、紙に書いて部屋のドアの隙間に差し込むしかなかった。

そして私は、その紙に書かれた文句に、一度も反応したことがなかった。元夫が何を書いてきても、私は完全に無反応だった。

それなのに、元夫は次々と紙を差し込んできた。

何を書いてきても私が反応しない。それでもまた紙を書いて、私の部屋のドアの隙間に差し込んでくる。それが本当に粘着質に感じられて、気持ちが悪かった。

そんな状態なのに、元夫は「もう離婚したい」とは一度も言わなかった。

これだけ関係が壊れているのに、なぜ離婚という話だけは出てこないのだろう。生活の中の細かいことについては、紙に書いてまで文句を言ってくる。それなのに、夫婦の関係そのものについては、一切触れてこない。

「もう離婚したい」「この結婚生活を終わらせたい」。そういう話は、一度もなかった。

私としては、元夫からそう言い出してくれたら、どれだけ助かったことだろう。

私がいなくなったほうが、元夫にとっても生活は楽だったはずだと思う。少なくとも、一人になれば水道光熱費だって減る。

それなのに、なぜ離婚しようとは言わなかったのだろう。不気味でしかなかった。

元夫は、あの生活をどう思っていたのだろう。あれだけ関係が壊れきっていたのに、終わらせようという言葉は出てこなかった。

そして、その後、私が家を出て、実際に調停に進んでからも、離婚はなかなか進まなかった。

あの頃、元夫の口から離婚という言葉が出てこなかったことと、その後、調停になってからも、なかなか離婚に進まず、私があれほど引っ掻き回されることになったこととは、何か繋がっていたのかもしれない。

「離婚したい」と言わなかったのは、関係を維持したかったからなのだろうか。

私は、そうは思えない。

夫婦としての関係は、とっくに壊れていた。会話もない。顔も合わせない。それでも、私が家の中にいることを前提にしたまま、元夫は離婚を切り出さなかった。

むしろ、私を自分の支配が及ぶ範囲から外したくなかったのではないか。

離婚してしまえば、私は元夫の支配が及ばないところへ出ていく。家の中で威嚇音を立てることも、紙に文句や戒めを書いて差し込むことも、できなくなる。

そう考えると、「離婚したい」と言わなかったことも、あの威嚇音も、別々のことではなかったのかもしれない。

威嚇音も、単なる大きな物音ではなく、私に元夫の存在を強制的に意識させるためのものだったのではないか。

「俺はここにいる」「帰ってきたぞ」「お前は俺の存在を無視するな」。

言葉にすれば、そんな意味だったのかもしれない。

もちろん、本当に元夫がそう考えていたのかは分からない。

ただ、モラハラという構造から考えると、相手を自分の思い通りに動かすことだけが支配ではない。相手に自分の存在を意識させ続けること、相手が自分の機嫌や行動を気にせざるを得ない状態を作ることも、支配の一つなのだと思う。

私が元夫の帰宅音に身構え、部屋の中で息を潜めていたことを考えると、少なくとも私の側には、そういう支配が成立していた。

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