この敷居は二度と跨がない!

その瞬間の澄み切った晴れ渡った空の青さを今でも鮮明に覚えている。
あの日の朝、私の心は不思議なほど軽やかで、
夢と希望とワクワク感が全開だった。
明るい未来しかないと思い込んでいた。
元夫が出勤する時間を見計らって、
引越し業者を手配した。
持ち出したのは、
自分で買った電子レンジ、
洗濯機、
テレビ、
そして自分の身の回りのものだけ。
少なめの荷物だったので、
あっという間に引越し完了。
新居のアパートに合わせ、
家具、家電のほとんどを新調した。
自分の想いだけで作られた空間。
その部屋に立った時、
ようやく自分の人生を取り戻したような気がした。

私は11年間暮らした家を無断で出た。
いわゆる昼逃げだった。
元々は駅前のマンションに住んでいたが、
戸建て購入の際、
元夫と意見が全く合わなかった。
私の通勤時間や生活のしやすさは後回し。
元夫の希望が最優先だった。
「俺に合わせなくてどうするんだ?」
「誰が働けと言った?」
「大した稼ぎでも大した仕事でもないだろ?」
その言葉を聞いた時、
この人とはもう無理だと思った。
まだ子どもたちにお金がかかる。
すぐに離婚することは現実的ではなかった。
子ども達が成人するまでは我慢する。
その10年後に離婚しよう。
そう心に誓った。
それまでも、
この人と人生を歩み続けるのは
難しいかもしれない、
いつかは離婚するかもしれない、
そんな思いを抱えていた。
そんな頃、元夫が放った言葉は、
最後の最後に細くつながっていた糸を、
静かにしっかりと断ち切った。
それから、長い長い家庭内別居を経て昼逃げを敢行した。
「この敷居は二度と跨がない」
その決意は、
今でもはっきり覚えている。
数週間後に届いた現実

家を出て数週間後、
私は元夫へ離婚届を郵送した。
これで終わりだと思っていた。
ところが届いたのは、
元夫が依頼した弁護士からの書面だった。
その時はまだ知らなかった。
昼逃げしたあの日は
終わりではなく、
長い闘いの始まりだったことを。


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