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今すぐ離婚してください
「今すぐ離婚してください」
「一刻も早く他人になりたい」
「今後、一切関わってほしくない」
「私は、あの人にずっと苦しめられてきました」
「家事も子育ても一人で頑張ってきた。それなのに見下され、モラハラを受け続けてきた」
「ただ普通の生活を送りたかっただけです」
「だから無断で家を出ました」
「話し合って家を出られるような環境ではなかった。出ていくことを伝えられるような状況ではなかったから、黙って逃げるしかなかった」
「それなのに、家を出た後もずっと苦しめられている」
「こんなくだらない争いは、今日限りで終わらせたい」
「今すぐ離婚してください」
いつもの調停は、申立人である元夫側から話をするのが流れだった。元夫側が先に話し、その主張を調停委員が私に伝える。私はそれに反論する。再び元夫側に戻り、またその返答が私のところへ運ばれてくる。
一回の調停は、お互い二回ずつ話すだけで、過ぎていく。毎回、その繰り返しだった。
元夫側が文句を言う。私はそれに答える。事実と違えば反論する。新しい要求が出れば、またそれについて説明する。次の調停では、前回出された文句や指摘に対する資料を準備し、また反論する。
気づけば私は、いつも元夫側が持ち出した話に答えているだけだった。元夫の訳のわからない主張に怯え、振り回され続けてきた。
「私はこうしたい」「私はこれを話し合いたい」「この問題を進めてほしい」そんな自分自身の主張をする場面が、ほとんどなかった。
家を出た後も、調停の中心にいるのは元夫だった。何を言うか。何を要求するか。次は何を問題にしてくるか。それに対して、私はどう答えるか。私はずっと、元夫の主張や文句に動かされていた。
その日に限って調停委員から、「今日はまりこさんから先に話を聞こうと思います」そう言われて始まった。
その冒頭で、私の口から自然に出た言葉だった。
今日はこれを話そうと、準備していたわけではない。それなのに、一度口を開いたら、言葉がとめどなく溢れてきた。自分でも分かるほど、鬼気迫る勢いだった。脅迫じみていたかもしれない。
「年金合意分割の権利も放棄します」
「財産分与も放棄します。本来なら私が受け取る立場だと思っています。それも放棄します」
「自宅についても、もう何もいりません」
「だから、今すぐ離婚してください」
そう話し続けた。途中で質問されることも、話を止められることもなかった。あまりの迫力に、そのまま聞き入っていたような感覚を覚えている。時間にして数分だったと思う。
しんと静まり返る中で、私の声だけが響いていた。私の魂の叫びだった。私は、何度「離婚してください」と叫んだのだろうか?
男性調停委員からは、「分かりました。そのまま○○さんに伝えます」とだけ言われ、元夫のターンとなった。
時計の針ばかり眺めていた

ただただ、時計の針ばかり眺めていた。元夫が話している間の待ち時間は、大抵30分程度。その日は、いつも以上に長く感じた。
時間が長い。
また荒れるのか。
それとも、このまま収束するのだろうか。
さっき私が話したことを聞いて、元夫は何を言っているのだろう。これまでの調停でも、調停委員から「ご主人がかなりお怒りです」という趣旨のことを何度も言われてきた。また怒っているのか。また新しい条件を出しているのか。また話をひっくり返そうとしているのか。そんなことばかり考えていた。
もし、ここでまた話がこじれたら、裁判になるのだろうか。裁判になったらどうしよう。いくらかかるんだろう。調停よりもっと辛いことが待っているのだろうか。そんなことまで考えていた。
やがて電話が鳴った。男性調停委員は、「○○さんに、そのまま全て伝えました」と言った。
腹を括るしかない。異常な緊迫感だった。
「はい、分かりました。もう疲れました」

元夫は、「はい、分かりました。もう疲れました」と、憔悴しきった声で答えたという。
本当?本当に本当?私、やっと離婚できるんだ!めちゃくちゃ嬉しい!
隣にいた弁護士と拍手をして、大喜びした。飛び上がって万歳したいくらいだった。近くにいた事務員さんも拍手で祝ってくれた。心の底から嬉しかった。本当に、嬉しすぎた。
その瞬間、ずっと心に抱えていた大きな重石が、ストーンと落ちた。気持ちがふわっと軽くなり、目の前がパッと開けたように明るくなった。今までずっと、先の見えない暗いトンネルに閉じ込められているような感覚だった。
いつ終わるのか分からない。本当に離婚できるのかも分からない。その暗い暗いトンネルの先に、突然、光が現れた。私、やっと離婚できるんだ。やっと、この人と他人になれる。
あの瞬間の感覚は、今も忘れられない。
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